「体に優しくて副作用が少ない医療に興味がある」
「スポーツ選手をサポートしたり、美容の仕事に携わったりしたい」
進路を探す中で「鍼灸(しんきゅう)」という言葉を目にし、気になっている人も多いのではないでしょうか。
「鍼灸師」は、東洋医学のプロフェッショナルとして、人々の健康や美容を根本から支える医療系の国家資格です。身体のツボ(経穴)にアプローチし、人間が本来持つ「自然治癒力」を引き出すアプローチは、医療・福祉だけでなく、スポーツや美容業界からも熱い注目を集めています。
この記事では、はり師・きゅう師を目指す高校生や将来の仕事について詳しく知りたい方向けに、仕事内容や就職先、リアルな収入事情から国家試験合格までのロードマップを徹底解説します。実際の先輩の体験談やおすすめの勉強テクニックも紹介するので、ぜひ進路選びの参考にしてください。
1. 鍼灸師(はり師・きゅう師)とは?基礎知識と役割

「鍼灸師」は2つの国家資格の総称
実は、「鍼灸師(しんきゅうし)」という単独の資格は存在しません。
法律上の正式な資格名は「はり師」と「きゅう師」という2つの国家資格です。この両方の免許を取得して、鍼(はり)と灸(きゅう)の両方を使った施術を行う人のことを、一般的に「鍼灸師」と呼んでいます。
- はり師:細い専用の鍼を用いてツボ(経穴)や筋肉を刺激し、痛みや不調を改善する国家資格。
- きゅう師:ヨモギの葉から作られる「もぐさ」を使い、ツボに温熱刺激を与えて代謝や免疫力を高める国家資格。
どちらか一方の資格だけでも働くことは可能ですが、実際の臨床現場では症状に合わせて鍼と灸を組み合わせて治療することが多いため、約9割以上の人が両方の資格を同時に取得しています。
豆知識:医師以外で「施術」を行える業務独占資格
はり師・きゅう師は、医師を除いて無資格者が施術を行うことが法律で禁止されている「業務独占資格」です。専門的な知識と技術を持ったプロだけが提供できる信頼性の高い仕事です。
東洋医学と西洋医学の違い
医療には大きく分けて「西洋医学」と「東洋医学」の2つのアプローチが存在します。
| 比較項目 | 西洋医学 | 東洋医学(鍼灸など) |
| 基本の考え方 | 患部を特定し、病気の原因を直接取り除く | 全身のバランスを整え、自然治癒力を高める |
| 主な治療法 | 投薬、手術、医療機器による処置 | 鍼、灸、手技、漢方など |
| 得意な分野 | 急性症状、感染症、画像診断、外科手術 | 原因不明の不調(未病)、慢性的な痛み、自律神経の乱れ |
| 副作用 | 薬の副作用リスクがある | 副作用がほとんど見られない |
西洋医学が「病気そのもの」を診るのに対し、東洋医学は「病気を抱えている人全体」を観察します。
体内に流れる「気(エネルギー)」や「血(血液・栄養)」の滞りを、全身に約360カ所あるとされる「経穴(ツボ)」への刺激によって整えていくのが鍼灸の基本原則です。
薬品を使わないため、赤ちゃんから妊婦さん、高齢者、ドーピング検査に配慮が必要なトップアスリートまで安全にアプローチできる点が、現代医療において世界的に評価されています。
日本の3大鍼灸治療法
日本の鍼灸は、時代や地域の変化に応じて発展してきました。現在では主に3つのアプローチが存在します。
- 現代鍼灸(げんだいしんきゅう)解剖学や生理学といった現代医学(西洋医学)の理論に基づき、筋肉や神経の構造に合わせてアプローチする手法。低周波の電気を鍼に流す「鍼通電療法」などは、スポーツ現場やペインクリニックで広く使われています。
- 中医鍼灸(ちゅういしんきゅう)本場・中国で体系化された伝統医学の理論に基づき、体質(証)を判断して根本的な原因から改善を目指す手法。
- 伝統鍼灸(でんとうしんきゅう)日本独自の進化を遂げた治療法。脈を診て体の状態を判断する「脈診(みゃくしん)」などを重視し、非常に細い鍼を使って優しい刺激で経絡(気の通り道)の流れを調整します。
柔道整復師やあん摩マッサージ指圧師との違い
同じ医療系手技療法として混同されやすい職種との違いを表で整理してみましょう。
| 職種 | 主な治療手法 | 治療アプローチ | 主な活躍分野 |
| はり師・きゅう師 | 鍼、もぐさ(灸) | ツボを刺激して自然治癒力や自律神経を整える | 鍼灸院、美容、スポーツ、医療機関 |
| 柔道整復師 | 骨折・脱臼・捻挫の手技処置 | 骨や関節、筋肉の損傷に対する応急処置やリハビリ | 整骨院、接骨院、スポーツ現場 |
| あん摩マッサージ指圧師 | 手技(揉む・押す・摩る) | 筋肉のコリをほぐし、循環を促進する | マッサージ院、リラクゼーション、福祉施設 |
※「はり師」「きゅう師」「あん摩マッサージ指圧師」の3つを併せて取得する「三療師」というキャリアパスもあります。
2. 鍼灸師(はり師・きゅう師)のリアルな仕事内容

施術のながれ:診察からアフターケアまで
鍼灸師の仕事は、単に鍼を刺したり灸をすえたりするだけではありません。患者さん一人ひとりと丁寧に向き合うプロセスが重要です。
【1. 問診(カウンセリング)】
└ 患者さんの悩み、生活習慣、既往歴を詳しく聞き取る
▼
【2. 診察(四診:望診・聞診・問診・切診)】
└ 顔色や舌を見る「望診」、脈に触れる「脈診」、お腹の硬さを確かめる「腹診」などで「証(体の状態)」を特定
▼
【3. 施術方針の決定・説明】
└ どのツボにどのような刺激を与えるか説明し、患者さんの納得を得る
▼
【4. 施術(刺鍼・施灸)】
└ 患部を消毒し、正確なツボへ鍼やお灸による刺激を与える
▼
【5. 状態確認・アフターケア】
└ 施術後の体の変化を確認し、日常生活でのアドバイスを行う
実際の鍼治療で用いられる鍼は、直径0.14~0.34mm程度と、髪の毛ほどの細さです。一般的な注射針(0.4~1.6mm)と比べると圧倒的に細く、先端が丸みを帯びているため、痛みをほとんど感じません。
また、お灸に使用する「もぐさ」は、温熱効果でじんわりと身体を温め、自律神経をリラックスさせる心地よい刺激をもたらします。
多彩な就職先と活躍の場
厚生労働省の統計によると、就業はり師は約13.6万人、就業きゅう師は約13.4万人にのぼり(衛生行政報告例より)、その活躍の場は急拡大しています。
【医療分野】
├ 総合病院・クリニック(整形外科、ペインクリニックなど)
└ 産婦人科・助産院(妊婦の逆子治療や冷え性ケア)
【鍼灸院・施術所】
├ 一般治療院(地域密着型の治療)
├ 訪問鍼灸(通院が難しい高齢者への出張施術)
└ 自宅・店舗での独立開業
【美容分野】
├ 美容鍼灸サロン(小顔、リフトアップ、肌質改善)
└ リラクゼーション施設・スパ
【スポーツ分野】
├ プロスポーツチーム・実業団(トレーナーとしてコンディション管理)
└ フィットネスクラブ・スポーツジム
【福祉・介護分野】
└ 通所介護(デイサービス)、特別養護老人ホームでの機能訓練
【教育・研究】
└ 鍼灸系専門学校・大学での教員・研究員
3. 鍼灸師(はり師・きゅう師)の年収・給与・収入事情

進路を決める上で、収入面の現実は気になるポイントです。公的データや実際の求人例をもとに検証していきます。
平均年収と1年目の給与目安
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」などの最新データによると、はり師・きゅう師の全国平均年収は約454.2万円(平均年齢37.6歳)となっています。
新卒・1年目の平均年収は約350万円程度からのスタートが一般的です。一般的な医療・福祉系職種の初任給と比較しても安定した水準と言えます。
【参考】鍼灸院・医療機関の求人例
- 月額給与:210,000円〜(経験年数に応じて加算)
- (内訳)基本給:190,000円 / 資格手当:20,000円
- 諸手当:住宅手当(上限20,000円/月)、通勤手当(上限50,000円/月)、家族手当など
- 賞与:年2回
- 昇給:年1回
- 勤務時間:8:30〜17:30(シフト制)
- 休日・休暇:4週8休+祝日、有給休暇(6ヶ月勤務後10日)
- 福利厚生:各種社会保険完備、退職金制度、制服貸与
働き方による収入の違い
はり師・きゅう師は就業形態によって得られる収入の幅が大きい特徴があります。
| 働き方 | 平均年収の目安 | 収入の特徴 |
| 病院・クリニック勤務 | 350万〜450万円 | 基本給が固定されており、賞与や手当が安定している |
| 治療院・鍼灸院(勤務) | 300万〜500万円 | 歩合制を導入している院が多く、指名数に応じて収入アップ |
| スポーツトレーナー(契約) | 300万〜800万円以上 | 担当するチームや選手の実績、有名度により変動 |
| 独立開業(オーナー) | 400万〜1,000万円超 | 自分のスキルと経営手腕次第で高収入を目指せる |
独立開業で1,000万円オーバーも狙える?
はり師・きゅう師の最大の強みの一つは、国家資格取得後に自分で開業権を持てることです。
開業準備金の目安は500万〜1,000万円程度とされますが、自前の店舗を持たずに「訪問施術専門」としてスタートすれば、物件取得費を大幅に抑えて低リスクで開業することも可能です。
最近では、SNS等を活用した集客や「美容鍼灸」など独自コンセプトの特化型サロンを開業し、年収1,000万円以上を達成する若手オーナーも増えています。
4. 鍼灸師(はり師・きゅう師)になるための具体的なステップ
国家資格を取得して実務に就くまでの最短ルートをまとめました。
【STEP 1】高校卒業(または同等以上の資格)
│
▼
【STEP 2】文部科学大臣または厚生労働大臣指定の養成施設に入学
│ ├ 専門学校(3年制):実践的な技術を中心に最短で学ぶ
│ ├ 大学(4年制) :教養・基礎研究を含め幅広く学ぶ
│ └ 短期大学(3年制):専門的知識と教養をバランスよく学ぶ
│
▼
【STEP 3】所定のカリキュラム(3年以上)を修了
│ └ 単位を取得し、卒業(または卒業見込み)で受験資格を獲得
│
▼
【STEP 4】国家試験を受験(毎年2月実施)
│ └ 「はり師国家試験」「きゅう師国家試験」の双方に合格
│
▼
【STEP 5】厚生労働省の資格登録を行い、免状を取得
│
▼
【STEP 6】鍼灸師として就職・活躍!
国家試験の難易度と同時受験の免除制度
はり師・きゅう師の国家試験は毎年2月下旬に実施され、合格率は例年70%〜75%前後で推移しています。
試験はマークシート方式(筆記試験のみ)で行われます。
国家試験の試験科目
- 医療概論
- 衛生学・公衆衛生学
- 関係法規
- 解剖学
- 生理学
- 病理学概論
- 臨床医学総論
- 臨床医学各論
- リハビリテーション医学
- 東洋医学概論
- 経絡経穴概論
- はり理論(きゅう師試験の場合は「きゅう理論」)
- 東洋医学臨床論
重要:共通科目の免除制度
「はり師」と「きゅう師」の試験を同時に受ける場合、12の「はり理論/きゅう理論」以外のすべての共通科目が免除されます。試験負担が大幅に軽減されるため、受験者のほぼ全員が同時受験を選択します。
5. 【事例】キャリアストーリー:整骨院勤務から独立開業まで
実際に資格を取得し、夢を叶えた先輩のリアルなストーリーを見てみましょう。
「自分の治療院を持ち、患者さんに100%向き合いたい」
都内接骨院 院長:Eさん
鍼灸師を目指したきっかけ
大学時代に柔道整復師の資格を取得し、鍼灸師の先輩が働く治療院で勤務したことが始まりでした。そこで間近で見た鍼灸の絶大な効果と奥深さに感動し、「自分も鍼灸のスキルを身につけて、もっと患者さんの悩みに応えたい!」と決意。働きながら養成校に通い、はり師・きゅう師の国家資格を取得しました。
下積み時代から開業への決意
資格取得後は、整骨院や整形外科クリニックのリハビリテーション科で経験を積みました。歩行困難な患者さんや術後のリハビリ患者さんに鍼灸施術を行い、確かな手応えを感じる一方で、「雇用されている立場では、自分が提供したい施術を100%提供しきれない」という葛藤が生まれました。もっと一人ひとりにじっくり寄り添いたいという思いから、資格取得3年目に独立開業を決意しました。
学生時代からの準備とメッセージ
「3年での開業は早いと言われますが、学生時代から『将来絶対に自分の院を持つ』と決め、先生や先輩に放課後や休み時間に積極的に質問し、実技を練習していました。
鍼灸の可能性はまさに無限大です。痛みや悩みを抱えている人にとって最高の薬になり得ます。これから目指す皆さんも、周りの家族や友人に協力してもらいながら何度も練習し、患者さんを幸せにできる素敵な鍼灸師を目指してください!」
6. 鍼灸師に必要な適性と国家試験対策テクニック
鍼灸師に向いている人の特徴
どのような人が鍼灸師に向いているのか、適性チェックリストで確認してみましょう。
- [ ] 人の役に立つこと、話を聞くことが好き(高いコミュニケーション能力)
- [ ] 手先を使う細かい作業が得意・好き(正確なツボの見極めが必要)
- [ ] 人の変化や体調の変化に敏感(細かな観察力・分析力)
- [ ] 人体や東洋医学の仕組みに関心がある(絶え間ない探究心)
- [ ] 根気強くコツコツ努力ができる(実技スキルの向上には反復練習が必須)
人体に直接アプローチする仕事だからこそ、確かな技術力と同時に「患者さんの不安を取り除く人柄や思いやり」が重要な資質となります。
プロが教える!国家試験・解剖学の効率的学習テクニック
専門学校や大学で学ぶ知識の中でも、受験生の壁になりやすいのが「解剖学」「生理学」「経絡経穴概論(ツボ)」です。効率よく暗記し、臨床で使える知識にするための具体的テクニックを紹介します。
1. 図解・イラスト化(マインドマップ)学習法
テキストの文字だけで丸暗記しようとするとすぐ忘れてしまいます。ツボの位置や血管・神経の走行は、自分の手で簡単なスケッチを描き、視覚情報として脳にインプットしましょう。
2. 自分や友人の体を使った「触診(しょくしん)」アプローチ
経穴(ツボ)の名前と場所を覚える際は、教科書を見るだけでなく、自分の体に実際に指を当ててツボの位置を探す癖をつけましょう。クラスメイトとお互いにツボを押し合い、指の感触で覚えることが最も効果的です。
【代表的なツボの例】
・合谷(ごうこく) :手の親指と人差し指の骨が交わる凹み。頭痛や肩こり、ストレスに効果的。
・足三里(あしさんり):膝のお皿の下外側から指4本分下。胃腸の調子を整え、疲労回復を促す。
・三陰交(さんいんこう):足の内くるぶしから指4本分上。冷え性や女性特有の不調にアプローチ。
3. 過去問の「出題パターン」解体ワーク
国家試験は過去問の類似問題が多く出題されます。ただ解くだけでなく、「なぜその選択肢が誤りなのか」を周囲に説明できるレベルまで落とし込むグループ学習が合格への近道です。
7. まとめ:夢に向かって最初の一歩を踏み出そう
鍼灸師(はり師・きゅう師)は、東洋医学の知恵と現代の知識を組み合わせ、多くの人々の心と体の健康を支える非常にやりがいのある専門職です。
- 「はり師」「きゅう師」の2つの国家資格を取得して働く
- 医療、美容、スポーツ、介護など活躍のフィールドが広い
- スキルと経験次第で、独立開業や高収入も目指せる
- 養成校(専門学校・大学)で3年以上学び、国家試験に合格する必要がある
自分の手で多くの人を笑顔にできる鍼灸師という職業に魅力を感じたら、まずはオープンキャンパスへの参加や資料請求から始めてみましょう。実際の鍼や灸に触れる体験授業を通して、未来の自分をイメージしてみてくださいね。


コメント